噛むたびに広がるジューシーな味わいが魅力的な牛肉。
品種や部位によっても特徴はさまざま。その楽しみ方は無限大ともいえるでしょう。
そんな牛肉ですが、実はおいしいだけではないのです。
魅力たっぷりな牛肉のあれこれを、まるっとご紹介します!
人気の食材、「牛肉」が日本に広まるまで
ステーキ、すき焼き、焼肉、ビーフシチュー、牛丼など、たくさんの楽しみ方がある牛肉。
今回は、食肉業界で活躍する人材を育てる公益社団法人 全国食肉学校の小原校長に、その魅力を教えていただきました。
教えてくれたのは…

公益社団法人 全国食肉学校
専務理事学校長
小原 和仁さん
公益社団法人 全国食肉学校

1974年に開校した、食肉分野の公的な職業能力開発校としては日本で唯一の全国食肉学校。群馬の恵まれた環境の中で、食肉に関するあらゆる技術と知識を体系的に身につけることができる。
〒370-1103 群馬県佐波郡玉村町大字樋越1794
https://www.fma.ac.jp/
かつての日本において、牛は、人間の生活を支える重要な労働力でした。
牛と共に田んぼを耕し、米を作り、稲わらが飼料となって牛が大きくなる。
牛の糞尿が田んぼの肥料になり、土壌が豊かになる。
そんな循環型農業が生まれました。

その後、日本で食肉の文化が進みはじめたのは、明治時代に突入した頃のこと。明治5年に明治天皇が率先して牛肉を食されたことを皮切りに、肉食が広まっていきました。『学問のすすめ』で有名な福沢諭吉も、幕末の頃から「牛肉は滋養によい。牛肉は夜の明けるに従い誰でも食用するようになる」と語っていたとされています。
そこから牛肉の消費はますます拡大し、今や国内で消費されている牛肉は年間一人あたり6.1kg。そのうち約40%が国産で、残りはオーストラリアとアメリカなどから輸入された牛肉です。
牛肉を食べると、体に良いことたくさん!
そんな牛肉には、たくさんの栄養素が詰まっているんです。
牛肉は、卵や魚と同じように「動物性タンパク質」を多く含む食材の一つ。この動物性タンパク質には、私たちの体内では合成できない「必須アミノ酸」がバランス良く含まれています。
必須アミノ酸は、「必須」という名前のとおり、人間の体内でタンパク質を合成する際になくてはならないアミノ酸です。

タンパク質はアミノ酸でできた桶のようなもの。1つでも基準に満たない必須アミノ酸があると、桶から栄養が漏れ出してしまい、栄養価が低くなってしまいます
※出典:公益財団法人日本食肉消費総合センター「新 食肉がわかる本」
参考:全国食肉検定委員会「第13回 お肉検定 1級テキスト 2024」
さらに牛肉は、植物に含まれる鉄分よりも腸からの吸収率が約4倍高い「ヘム鉄」や、脂肪燃焼を助けてくれる「カルニチン」を含みます。そのため、貧血になりやすい方や、ダイエット中の方は、普段の食事に牛肉を取り入れると良いと言われています。
それだけではありません。気持ちの安定化に役立つ「セロトニン」も含まれているんです。このセロトニンには、眠りの質を向上させるなど、幸福感を得やすくする効果があります。
牛肉を食べている人が自然と笑顔になれるのは、おいしさはもちろんのこと、セロトニンのおかげでもあるのかもしれませんね。
海外でも認められている日本の食肉処理技術
牛肉が皆さんのご家庭に届くまでには、部位ごとに分けたり、筋を取ったり、形を整えたりする「食肉処理」が必要です。
日本では明治以降の150年間で、食肉処理の技術を磨き上げてきました。その技術は国内外で認められており、私たちの学校・全国食肉学校にも海外のシェフが食肉処理について学びに来られることがたびたびあります。
また日本の牛肉は、長年の品質改良により、霜降りが多いことも特長の一つ。多くの部位がステーキや焼肉、すき焼き、しゃぶしゃぶなど、いろいろな楽しみ方で味わうことができ、国内外で愛されているのです。

小原さん

部位ごとの特徴を一挙ご紹介!
何より牛肉は、部位によって味わいがさまざまです。どの部位にもそれぞれの良さがあるので、ぜひ特徴をよく知って、違いを楽しんでみてください。

ネック
きめはあらく、肉質はかため。エキス分やゼラチン質が豊富です。
かたロース
「リブロース」「サーロイン」へと続く筋肉。きめ細かくやわらかい、優れた肉質が特徴です。
かた(うで)
きめがあらく、肉質はややかため。ネックと同じく、エキス分やゼラチン質をたくさん含んでいます。
リブロース
きめ細かくやわらかい肉質を持ち、「ヒレ」「サーロイン」と並ぶ最高部位の一つ。その断面は見事な霜降り状態になります。
サーロイン
きめが細かくやわらかい最高の肉質を持つサーロイン。ステーキに最も適した部位です。
ヒレ
最も運動をしない筋肉なので、最も柔らかい部位です。脂肪分が少ないため、タンパク質が豊富に含まれています。
ばら
繊維質や筋膜が多く、きめがあらい部位。赤身と脂肪が層になって霜降りになりやすく、たいへん濃厚な風味を持っています。
もも
うちもも:牛肉の部位の中でも脂肪が最も少ない「うちもも」。ほとんどが赤身なので、赤身を好む人におすすめです。
しんたま:脂肪が少なく、赤身中心の部位。肉のきめは細かくやわらかい特徴があります。
らんぷ
最高部位に次ぎ、準高級の部位として評価される部位。「らんいち」「らむ」とも呼ばれます。
そともも
もも系の部位の中で、最も運動量が多い筋肉。きめがあらく、ややかたい肉質が特徴です。
すね(まえずね、ともずね)
肉質はかたく、腱のおおい部位。「ネック」や「かた」と同様に、エキス分・ゼラチン質を豊富に持っています。前足のものが「まえずね」、後足のものが「ともずね」と呼ばれます。
※出典:全国食肉公正取引協議会「お肉のQ&A」改訂版
参考:全国食肉検定委員会「第13回 お肉検定 1級テキスト 2024」
今後も、おいしい牛肉を味わっていただくために
魅力たっぷりの牛肉ですが、今後もおいしく食べ続けていただくためには、まだまだ課題が残っています。
まずは「飼料の自給率の低さ」です。
日本では穀物を中心とした肥育が主流ですが、その飼料は牛・豚・鶏を合わせると約73%が輸入によるもの。輸入価格も高騰する中、生産農家の方々はたいへん苦労されています。
さらに牛は妊娠期間が約280日と長い上に、一度に出産できるのは一頭のみなので、安定的に出荷し続けるのは容易ではありません。高齢化などによる繁殖農家の後継者不足も進んでおり、政府が積極的な支援を行っています。

全国食肉学校では、食肉業界で活躍する人材育成に力を注ぐとともに、外国人技能実習生の技能評価試験機関としても活動しており、牛肉豚肉の安定供給に貢献していきたいと考えています。
また、牛肉といえば「価格が高い」というイメージがある方もいらっしゃるでしょう。今後、牛肉をより身近な食材にするには、飼料となる麦や米の国内生産量を増やすことも重要になってくると思います。
他にも、消費者のニーズとマッチした牛肉をつくることも大切です。最近では、消費者から「脂肪の多い霜降り肉より、もっと赤身の多い牛肉が欲しい」という声が増えています。そうした意味でも、赤身肉のおいしさが引き立てられた『亜麻仁の恵み牛』はおすすめです。私はステーキで『亜麻仁の恵み牛』をいただきましたが、脂肪が軽くさっぱりしていて大変食べやすく、とてもおいしかったですよ。スキンパック(真空パック)の商品もあり、見た目も良く、お買い求めになった方々はきっとリピーターになると思います。皆さんもぜひ試してみてください!
【Part2 「亜麻仁」で引き出す、牛肉の新たな魅力】(5月公開予定)では、『亜麻仁の恵み牛』が生まれるまでの道のりをお届けします。