totop
2024.10.23

Part2 AIが製造現場に登場するまで

この記事をシェア

特集:『本格炒め炒飯®』を見つめる、もう1つの“目”

Part2 AIが製造現場に登場するまで

ニチレイフーズの看板商品の一つ、『本格炒め炒飯®』。その製造現場に、AI技術が導入されていることをご存知でしょうか。

今回は、『本格炒め炒飯』の製造現場を変えた、従業員ともう一つの“目”に迫ります。

『本格炒め炒飯』の魅力は「Part1 炒飯の妖精が『本格炒め炒飯®︎』の魅力を徹底レポート!」 で紹介中!こちらも是非ご覧ください!

高精度で、長時間。撮影環境づくりからAI導入は始まる

高い品質の商品をより効率よく製造するために、ニチレイフーズでは2017年ごろからAIを使った検査システムの開発・導入に取り組んでいます。生産工場にAIを導入するメリットを、工場内の設備全般の設計・導入を担う装置開発グループの筒井が教えてくれました。

プロフィール画像

ニチレイフーズ
生産統括部 技術戦略部
装置開発グループ

筒井 泰之

「人の瞬時の判断能力や作業性はとても高く、AIや機械はまだまだ追いついていません。しかし、集中力がいつまでも続くかと言われたらそうではありませんし、体調がすぐれない時など精度に波が起きる可能性も0ではありません。一方AIは疲れ知らず。一定の品質で動いてくれるという特徴があります。その違いを理解して、うまくAI使いこなすことで、従業員の負担を減らしながら高い品質の商品製造を実現できるのです。」

しかし、冷凍食品工場への設備導入は、高いハードルを超えなくてはなりません。

例えば、今回検討の舞台となった船橋工場は、ニチレイフーズの主力商品である『本格炒め炒飯』をはじめ、さまざまな米飯類を製造している工場です。炒飯からは、油を含んだ湯気が立ち上るため、AIへ画像データを送るためのカメラにも、さまざまな対策が必要でした。

筒井

長時間、同じクオリティで画像データを入手できること。それがAI導入のファーストステップです。水分や油分からカメラを守るため、さまざまな種類のカバーを試しました。しかし、炒飯から立ち上る油を含んだ湯気でカバーがすぐに曇ってしまって…。テストのために何度も工場にうかがいました。

試行錯誤の末、取り外し可能な透明な樹脂カバーを設置し、曇ったらすぐに交換できる仕様に。さらにカメラを熱気から守れるように空気を循環させるための冷風機を設置。これらの工夫によって、高精度な写真を長時間撮影し続けられるとわかりました。

ファーストステップを乗り越え、2019年からは『本格炒め炒飯』の生産ラインに導入する装置の開発が本格的にスタート。従業員への負荷が大きい3つの検査工程でそれぞれチームが組まれ、検討が始まりました。

1つは、商品パッケージを圧着した部分に炒飯が噛み込みしていないか検査する工程。
もう1つは、具材のネギに異物が入っていないかを検査する工程。
そして、焦げた炒飯をチェックして取り除く工程です。

一色ではない、焦げ判別の難しさ

焦げた炒飯をチェックして取り除く工程は、長年人の“目”と“手”で行っていた工程です。
今回の装置では、人の目に変わってカメラを設置。撮影したデータの中からAIが焦げを認識し、取り除く装置(アーム)へ情報を伝えることで焦げを除去します。

「AIが焦げを正しく判別できるようになるまでは、長い道のりでした」と筒井は振り返ります。

筒井

米粒、卵、焼豚はそれぞれ異なる食品ですから、焦げた時の見た目や色合いが異なります。そこで焦げが混ざった炒飯の画像を大量に用意し、1枚1枚焦げの箇所をマーキング。それをAIに読み込ませることで、具材ごとに取り除くべき焦げのレベルを学習させていきました。

AI学習用に色分けした、ラインを流れる炒飯の画像

AIの判別精度を上げる作業は根気強さが必要で、「まるで学校の先生のよう」と筒井は表現します。

筒井

学校の先生が授業のカリキュラムを組むように、AIも正しい順番で物事を教えなければいけません。それに、教える範囲も明確に定めなくてはならないんです。判別レベルを厳しく設定しすぎると取り除かなくて良い部分まで廃棄することとなり、食品ロスにつながります。かといって、レベルが低すぎると商品の品質が揺らいでしまう…。学習のさせ方を誤って一気に精度が落ちてしまい、落ち込んだこともありました。

それでも、根気よく精度向上に取り組んだ筒井。半年をかけて、数百枚の画像をAIに学習させました。AIが焦げを判別しやすくなるように、写真の色味も調整。工夫は実を結び、徐々に高い精度で焦げを判別できるようになりました。

赤く囲まれた部分が、焦げと判別された炒飯

業界を先駆ける、アラート機能とは

AIを使った焦げ除去装置には、もう一つ求められていることがありました。それは、炒飯に入っている具材の量の偏りをチェックする機能です。

検査員と同じように、具材の量の偏りを発見したら前の工程の設備確認を依頼する、アラート機能をつけることで品質の維持に役立てたいという狙いがありました。

このリクエストにどう対応すべきか、筒井は考えました。炒飯は料理の特性上、米粒や卵、焼豚など形状が異なる具材が混ざっているため、瞬時に具材の割合を出すことが難しかったからです。

筒井

不定形な食品を瞬時に捉え、割合を検知するという点は、他の業界で導入されているAIでもなかなか実現されていないもの。高い壁でしたが、これが実現できたなら大きな価値になると思ったんです。

筒井は、画像から具材ごとに面積の割合を瞬時に割り出し、異常があればアラートを出すような新しいプログラムを組むことにしました。

さらに工場の協力も得て、1日の製造が終わった後に検証のためだけにラインを1時間だけ稼働。具材の量に偏りのあるテスト品を流すなど、AIに異常を学習させていきました。データ処理にかかる時間はみるみる短くなり、高い精度でアラートを発信できるようになっていきました。

AIを現場で育て、使いこなすことでニチレイフーズは強くなる

試験導入では、カメラ・焦げを判断する装置・取り除く装置の3つの情報伝達がうまくいかず、調整に奔走。そうした苦労も、「米飯ラインのリーダーや技術グループといった、工場をよく知る導入チームのメンバーたちと力を合わせたからこそ乗り越えられました」といいます。

2024年2月、焦げの除去装置は生産ラインでの本格稼働をスタート。
「本当に苦労の絶えない装置でしたから、学習が完了する頃には我が子のような愛着が湧いてきました」と筒井はほほ笑みます。

筒井

今は現場の方が中心となって焦げ除去装置のブラッシュアップを進めています。また焦げ除去装置をきっかけに、船橋工場では他の工程へのAI導入も加速しています。AIを現場で育て、みんなで使いこなしていくことで、ニチレイフーズはもっと強くなれるでしょう。

船橋工場で働く現場従業員から見た焦げ除去装置の導入ストーリーは、【Part3  AIで変わる、製造現場の今】(11月公開予定)でご紹介します。

焦げ除去装置の開発に携わった社員のこぼれ話

筒井

AIは「何でもできる」というイメージを抱かれがちですが、まだまだ人間の能力に追いついていない部分がたくさんあります。人間が出せる最高点とAIが出し続けられる平均点の違いを理解することで、AIの使いこなし方を見つけられ、相乗効果を発揮できます。現場にフィットしたAIをみんなでつくり上げられたのは、最高点と平均点の違いをみんなが理解してくれたからだと感じています。

関連記事