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2024.11.13

Part3 AIで変わる、製造現場の今

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特集:『本格炒め炒飯®』を見つめる、もう1つの“目”

Part3 AIで変わる、製造現場の今

Part2では、食品工場にAI技術を導入するまでのさまざまなハードルをご紹介しました。Part3では、実際に現場に導入されたAI技術と、現場の変化に迫ります!

製造現場が抱えていた悩みとは

「工場でもAIが活躍できるって、本当なの?」

ニチレイフーズの船橋工場でAI技術の導入が検討され始めた2019年当時、その実現性について、従業員は半信半疑でした。船橋工場はニチレイフーズの主力商品である『本格炒め炒飯®』をはじめ、さまざまな米飯類を製造している工場です。

「ニチレイフーズは長年、人の“目”と“手”で丁寧なものづくりをしてきました。だからこそ、人と同じようなパフォーマンスをAIが発揮できるのか、と疑う人が多かったんです」。そう話すのは、長年米飯商品の製造に携わってきた生産統括部 船橋工場製造グループ ラインリーダーの武井です。複数の国内工場において製造部門を経験しており、現在は米飯ラインのリーダーとして170名を束ねています。

プロフィール画像

ニチレイフーズ
生産統括部
船橋工場製造グループ
ラインリーダー

武井 陽平

「生産ラインは自動化・省人化を進めているものの、各所で訓練を積んだ従業員がライン上で商品をチェックし、手作業で焦げを取り除くなど、人の力に頼る部分もまだまだあります。最終的に人の“目”と“手”で安全・安心を確認して初めて、自信を持って商品を送り出せるんです。」

一方で、従業員への負荷は悩みの種でした。

武井

検品工程ではコンベアの前に立って商品をじっと見つめながら確認しなければなりません。休憩を挟みつつ作業にあたっていただいていますが、気の抜けない作業は集中力を使いますし、体への負担も少なからず発生していました。働きやすい職場づくりのためにも、従業員の負荷を軽減するAIの導入に挑戦する価値は大いにあると感じました。

また、人が焦げなどの異物を瞬時に判断し、取り除くには訓練も必要です。人財育成の難しさを解消する一手としても、AI導入に期待がかかっていたのです。まずはAI導入に欠かせないカメラを、熱気と湿度のある工場内で試験的に活用し、長時間問題なく撮影できるかをテスト。その後、従業員への負荷が大きい3つの検査工程でそれぞれチームが組まれ、検討が始まりました。

1つは、商品パッケージを圧着した部分に炒飯が噛み込みしていないか検査する工程。
もう1つは、具材のネギに異物が入っていないかを検査する工程。
そして、焦げた炒飯をチェックして取り除く工程です。

「チャレンジングな取り組みに、ワクワクしていました」と振り返るのは、武井と同じく、焦げた炒飯をチェックして取り除くAI技術の導入チームに選ばれた旅川です。当時は技術グループとして、船橋工場内にある機械の保全やメンテナンス、新しい装置の導入の検討などを担当していました。

プロフィール画像

ニチレイフーズ
生産統括部 技術戦略部
装置開発グループ

旅川 広大

「AI技術の活用は社会全体で推奨されていましたし、他の工場にもまだ導入されていない装置に挑戦できることはとてもうれしく感じました。現場をよく知る武井さんに加え、品質保証や装置開発担当者など、各部署から知見を持つメンバーが集まり、挑戦がスタートしました。」

目指したのは、人と同等、もしくはそれ以上の目をもつAI装置です。

描いたレイアウト案は20以上!?

今回の装置はカメラで撮影したデータの中からAIが焦げを認識し、取り除く装置へ情報を伝え、除去するもの。真っ先に議論されたのは、焦げを認識するカメラとそれを取り除く装置の設置場所でした。

旅川

工場の安全面や製品の品質管理なども考慮すると、工場内に大型の設備を設置するスペースはありません。それに、温度管理や工場の床の耐荷重など、次から次へとクリアしなくてはいけない条件が出てきて。普段の業務でもなかなか経験したことのない難題の数々でした。

装置自体の開発は装置開発グループの筒井を中心に同時並行で遂行。どんな形状・サイズの装置になるのかはギリギリにならないと確定しなかったため、想像を膨らませながら生産ラインのレイアウトを考えなくてはならない難しさもあったと言います。
(装置が開発されるまでの試行錯誤の様子は、Part2  AIが製造現場に登場するまで をご覧ください)

そして何より、商品の安全性や衛生レベルを下げることは絶対に避けなくてはなりません。

メンバーはレイアウト案を20以上作成し、どの案であれば条件をクリアできるのか一つずつ検証。毎週の会議を半年以上続け、ようやく安全性に問題がなく、かつ大型の装置を設置できるレイアウトを見つけ出しました。そして各工程の担当者に対して熱意を持って説明し、説得。ようやく設置場所が確定しました。

焦げだけ見ればOKじゃない! 人の目を超える存在に

場所が決まった後は、AIの判断性能を磨くフェーズに。ここで武井は、製造の視点からあるリクエストをします。それは、焦げ以外も判断できる性能にすることでした。

武井

検品を担う従業員は、単に焦げの有無だけ見ている訳ではありません。例えば、炒飯に入っている具材の量が極端に偏っていたら、前の工程に連絡して設備に問題がないか確認する。そんな、生産ライン全体のチェック機能も担っているのが検品工程なのです。人と同等、もしくはそれ以上の目をもつAI装置を目指していましたから、焦げ以外の異常にも気付けるようにしたいと思いました。

そこで、具材の量に偏りのあるテスト品を流し、さまざまなタイプの異常をAIに学習させていきました。メンバーや装置開発グループの試行錯誤によって、AIの精度は少しずつ向上を見せ、アラート機能の確立まで漕ぎ着けました。

旅川は、カメラから取り除く装置まで、スムーズに情報が伝達するよう、検証を急ぎました。

旅川

カメラ・焦げを判断する装置・取り除く装置の3つは、それぞれ独立した機械。トラブル発生時にどこが要因で起きたものなのか、判断するのは難しいものでした。

それでも、それぞれの機械メーカーの担当者さんとコミュニケーションをとりながら、根気よく検証を続けました。検討スタートから約8カ月。試験導入でその精度が明らかになると、工場内からは驚きの声が上がりました。

旅川

試験導入時は従業員の目視によるWチェックも併用しましたが、数カ月後には長時間工程を任せられるほどの精度となりました。人の感覚に判断が委ねられる検品工程を、AIは常に一定の基準で判断してくれます。変わらぬ味を製造し続けられることにもつながり、大きなメリットだと感じています。

これまで検品工程に携わっていた従業員は、別の工程で働けるようになりました。検品工程で働くために必要だった訓練期間も解消されたことで、現場からの反応は上々だと武井は言います。

武井

検討当初、私同様「AIに検品の仕事ができるのか?」と疑っていた従業員もいましたが、実際に導入されてからは「他の工程にもどんどん導入してほしい!」と声をかけられるくらいです。作業者が機械に代わることは、単に従業員の負荷軽減だけではなく、製造コストの低減や、別の業務に人員を割り当てられるようになるなど、長い目で見るとニチレイフーズの競争力アップにも貢献できていると感じています。価値のある第一歩を踏み出すことができました。

現在、製造工程で実際に活躍している焦げ除去装置ですが、旅川は更なる高みを目指しています。

旅川

AIの学習精度を安定させるまでは大変でしたし、トラブル発生時の対処も苦労が続きました。やり切れてよかったと思う一方で、精度や装置のサイズなど、改良の余地はまだまだあります。他の工程や商品、工場へ応用していくことで、働きやすい職場を追求していきたいです。

焦げの除去装置の導入をきっかけに、船橋工場では他の工程へのAI導入も進められています。ニチレイフーズはこれからも安心安全な職場づくりを進め、食卓へ変わらぬ味をお届けしていきます。

今回ご紹介した船橋工場で製造されている『本格炒め炒飯』の魅力については、【Part1 炒飯の妖精が『本格炒め炒飯®︎』の魅力を徹底レポート!】でご紹介しています。ぜひご覧ください。

炒飯製造に携わる社員のこぼれ話

武井

今回のAI技術導入によって作業負荷を減らせたことで、他の業務に時間や人員を割くことができ、米飯ライン全体の効率化が進みました。『本格炒め炒飯』を手に取ってくださる方も、そしてそれをつくる従業員も、みんなに笑顔が溢れる会社であり続けたいですね。

旅川

私自身、学生時代は化学系を専攻していたため、製造技術に携わったのは入社してからです。食品工場で技術系の仕事というと驚かれることもありますが、今回のAI導入のように幅広い分野に携われるのはニチレイフーズの魅力の一つだと思います。

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