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2024.04.25

えびを育むマングローブの森へ
一本一本続ける恩返し

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二人三脚。

えびを育むマングローブの森へ
一本一本続ける恩返し

ニチレイグループがさまざまなパートナーと⼿を取り合い、「⼆⼈三脚」で取り組んでいる活動を紹介するこのコーナー。今回は、世界有数のえびの養殖地、インドネシア・カリマンタン島でマングローブの森を再⽣する、『⽣命(いのち)の森プロジェクト』をご紹介します。

ニチレイフレッシュと、現地でえび養殖を営むPT.Mustika Minanusa Aurora(以下MMA社)が踏み出した一歩は、今ではインドネシアを飛び越え他の国まで、そして青々としたマングローブの森へとつながっています。

プロフィール画像

ニチレイフレッシュ
調達生産本部 水産戦略部
えびグループ

福島 正豊

プロフィール画像

MMA社
Vice President(副社長)

Shih Ho Chenさん

生命のゆりかご・マングローブ

日本から南西に約5000㎞。インドネシア・カリマンタン島。
この地でえびの養殖事業を営むMMA社の事務所の一角を覗くと、壁一面を埋め尽くす写真の数々がありました。『⽣命(いのち)の森プロジェクト』で植樹を行った際に撮影された、記念写真です。

ニチレイフレッシュの⽔産事業で長年えびの調達に携わり、『⽣命の森プロジェクト』の窓口も務めた福島は感慨深そうに眺めます。

福島

みんないい笑顔ですよね。こんなに大きなプロジェクトになるとは、正直思わなかったな。

それに相槌を打つのは、『⽣命の森プロジェクト』発足時からのパートナーであるMMA社のShihさんです。

Shihさん

本当にね。よく話すけど、こんなに長く続く取り組みになってびっくりしているよ。写真を見ていると達成感を感じるね。

インドネシアは世界でもトップ3に入る、えびの一大養殖地です。
通年20℃前後に保たれる気温や、汽水域(きすいいき)の広大さ。満潮時と干潮時における海面の差の大きさ。えびが育ちやすく、収穫もしやすい条件が揃うため、古くから養殖事業が盛んに行われてきました。

※汽水域 川と海、つまり淡水と海水が入り混じっているエリアのこと

干潮時と満潮時の海面の差を利用すると、えびの収穫が楽に行える

汽水域には、マングローブと呼ばれる植物群が生い茂っています。入り組んだマングローブの根は、たくさんの小魚やえび、かにたちにとって大切なすみかです。そしてそれらを食べようと大型の魚や鳥、サルといったさまざまな生き物もマングローブの森に集まってきます。

マングローブは豊かな生態系を守る、生命のゆりかご。
しかし、1980年代、マングローブの森は次々と伐採されていきました。

その原因は、他でもない「えびの養殖」にありました。

「えびを育てるほど、森が減る」という悪循環に歯止めを

えびの養殖方法は主に2つ。

一つは「集約養殖」。養殖池を人工的に整備し、そこで飼料や抗生物質を与えながら育てる方法。

もう一つは「粗放養殖」。元の地形を利用し、池にいるプランクトンを餌にするなど、自然に近い環境で大きなサイズになるまでじっくり育てる方法です。

この2つの養殖方法は、収穫量も大きく違います。

福島

例えば100m×100m(1ヘクタール)の池があったとします。集約養殖では1年に2回、合計で約20tのえびを出荷できるのに対し、粗放養殖は1年に数回出荷できるものの、総量は200㎏程度です。

しかし、集約養殖では養殖池を維持するために土壌に負荷をかけるため、何十年も同じ池を使い続けることはできません。養殖池が疲弊し、だんだんとえびが育たなくなってしまうのです。そして一度疲弊した養殖池は、数年〜数十年単位で時間をかけなければ元通りになりません。

Shihさん

養殖事業者は売上を維持しなくてはなりませんから、別の場所で養殖を続けるためにマングローブの森を切り拓く……。生態系への影響は避けられませんでした。また、海からの風や波から陸地を守り、陸からの土砂の流出を防ぐ役割も持ち合わせるマングローブがなくなったことで、カリマンタン島に暮らす人々の安全な暮らしにも影響が及んでいました。

生産地の環境負荷を減らす。えびの調達を持続可能なものにする。その決意のもと、ニチレイフレッシュは1995年以降、粗放養殖で育てたブラックタイガーえびの調達・販売に取り組んでいます。

森を「守る」だけでは足りない。 マイナスをプラスにしていく

しかし、これだけは足りないと考えました。
粗放養殖を通じて今ある自然を守るだけでなく、失ったマングローブの森を取り戻す、いわばマイナスをプラスに変えていくためのアクションを——。

そして、2006年。
ニチレイフレッシュとMMA社は『⽣命の森プロジェクト』を立ち上げました。

このプロジェクトは、粗放養殖で育てられたえびの収益の一部を、ニチレイフレッシュとMMA社が共同で設立した「マングローブ基金」に寄付。それを原資にMMA社を中心に、カリマンタン島内でマングローブを植樹する取り組みです。

Shihさん

『⽣命の森プロジェクト』の構想を初めて聞いた時、ニチレイフレッシュはえび養殖の“今”だけでなく、“未来”を見据えているのだなと感じましたね。

福島

これからも、おいしいえびを食卓へお届けし続けたい。そんな思いからこのプロジェクトは動き出しました。まずはMMA社のあるカリマンタン島 タラカン市内のマングローブ公園への植樹からスタート。そして徐々にタラカン市内の沿岸部へと展開していく計画を立てました。

みんなで一緒に植えるからこそ、 伝えられることがある

ただ、活動の輪を広げていくのは簡単ではありませんでした。

福島

植樹活動の資金源はえびの販売収益ですから、取扱量を増やさねば、活動自体存続できません。しかし、プロジェクトが発足した2006年当時はまだ「サステナブル」という言葉が浸透していない時代。卸売企業には「マングローブの森を増やすことと、日本の食卓にどんな関係があるのか?」となかなか共感いただけない日々が続いたと聞いています。

そこでニチレイフレッシュは卸売企業を現地に招待し、駐在員やMMA社の従業員と共にマングローブを植樹するツアーを企画しました。

福島

植樹したエリアは、タラカン市の中でも森の奥深い場所にある養殖池の周辺。船で移動して、時には泥に埋まりそうになりながら穴を掘り、一本一本苗木を植えていただきました。言葉は通じないのですが、一緒に汗を流したことでマングローブの森や生産者を守りたいという心が伝わったと思います。

Shihさん

植樹場所やそこまでのルートは、ニチレイフレッシュと都度相談して決めています。大きく成長したマングローブの木を見ると、うれしい気持ちと達成感でいっぱいになります。地球環境を守ることに貢献できているんだと、実感が持てるんです。

えびの取扱量は年々増加。また活動が地元新聞社に取り上げられるなど、プロジェクトは段々と認知されるようになりました。現地の住民や教育機関、政府関係者にも積極的にお声がけしたことで参加者は年々増加し、植樹場所も広がっていきました。

17年の活動が紡いだ絆

広がったのは、マングローブの森だけではありません。

2011年3月11日、東日本大震災が発生。ニュースを耳にしたMMA社の従業員たちの顔は青ざめました。

Shihさん

当時は本当に心配しましたよ。私たちに何かできることはないか考え、ニチレイフレッシュへメッセージを送ることにしました。「日本とインドネシア、距離は離れていても私たちは同じ世界で生きている仲間。互いに支えあいましょう」という思いを込めました。

写真の中でMMA社が掲げたのは、「We are with you in this difficult time」の文字。苦しい時だと思いますが、心はひとつ——。

福島

写真を見て涙が出ましたよ。ただ単に生産者と企業という関係性ではなく、僕らのことを“仲間”として信頼してくれているんだって。より一層、絆が深まった瞬間です。

震災直後や昨今のコロナ禍中は、ニチレイフレッシュのメンバーがなかなかインドネシアに足を運べない日が続きました。それでも、MMA社は現地での植樹活動を続けました。

現在では、ベトナムやタイといった近隣の国の計13の企業・団体まで活動の輪が広がりました。2023年度末までに延べ150回以上の植樹を実施、植えられたマングローブは51万本にのぼります。カリマンタン島内の緑地は目に見えるほど拡大し、干潟の生き物たちやサルなどの動物たちが戻ってくるなど、着実に実を結んでいます。

10年間で広がったマングローブの森

Shihさん

マングローブ公園の緑地面積は、植樹によって9ヘクタールから21ヘクタールまで増えました。森は公園内で保護しているテングザルのすみかにもなっていて、その数はこの17年で18匹から65匹にまで増加したそうです。さらには公園付近の気温も1〜2℃低下するなど、さまざまな面で効果が表れているようです。

福島

プロジェクト発足から17年以上も活動が続いているのは、“環境・人にやさしくありたい”と想う心に共感いただけたからだと思います。食卓を彩るえびは尊い自然の恵みであり、養殖事業に携わる方々の苦労と努力の結晶ですから、これからも『⽣命の森プロジェクト』を通してニチレイフレッシュらしい“恩返し”を続けていきたいです。

安全・安心でおいしいえびを未来世代へつないでいくために。一本一本、思いを込めた植樹活動は続きます。

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